1、ラット精巣の主要なホスホリパーゼA(PLA)はCa2+非依存性で酸性リン脂質に特異性が高い。本研究では、このPLAの精製をすすめた。イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過、イオン交換HPLCの各ステップで酸性リン脂質に特異性の高いPLA活性とリパーゼ活性がおなじ分画に溶出した。小腸ホスホリパーゼB/リパーゼ(PLB/LIP)も単一酵素でホスホリパーゼA2活性とリパーゼ活性を持つがりん脂質の極性基に対する基質特異性は広く酸性りん脂質に特異性がない点で精巣酵素と異なっていた。さらにゲルろ過から推定される分子量や免疫化学的特異性でも異なっていた。ホスファチジン酸などの酸性リン脂質に特異性が高いPLA活性とリパーゼ活性を併せ持つ酵素はこれまでに報告されていない。今後カラムからの回収率をさらに改善して完全精製酵素を得てこのユニークな基質特異性の確認その機構および本酵素のリン脂質リモデリング、情報伝達系における役割を追求して行きたい。 2、ヒト精子のPLB/LIPの機能を探るためその免疫組織化学的分布を調べ、また特異的非可逆的阻害剤を用いた阻害実験を行った。先体反応との関連性について検討中である。 3、ラット精巣PLAとその酵素化学的性質を比較するためPLB/LIPの反応機構を部位特異変位法と親和標識法により解析した。その結果からPLB/LIPは活性セリンを活性ドメインのN末端側に位置するGly-Asp-Ser-Leuのモチーフ内にもつ新しいリパーゼファミリーに属する酵素であることが分かった。さらにSerの機能をサポートするcatalytic triadの他の2残基HisとAspの同定をした。変異酵素はCOS-7細胞とY-1細胞発現系を用いて作成し発現効率の良い変異体は精製標品を用いて解析した。非可逆的阻害剤とPLB/LIPの反応を速度論的に詳しく解析し、さらに阻害剤でラベルされるアミノ酸残基を質量分析法によって確認した。 4、小腸PLB/LIPで大量発現系をバキュロウイルスを用いて作成した。発現酵素は新たに開発した2ステップ法により効率良く精製した。3、で述べた部位特異変位法によるPLB/LIPの反応機構解析を精製酵素を用いてさらに発展させている。また結晶解析に適した結晶の作成を開始した。
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