研究概要 |
私どもは以前の研究で、ラットより二種類の新規のエクト型ホスホジエステラーゼをクローニングし、それぞれPD-Iα,PD-Iβと命名した。この酵素は細胞膜に存在し、核酸の代謝に関与すると推定されている。今回の研究では、ヒトの同酵素をクローニングして、解析を行った。ヒトのPD-Iαは脳、胎盤、肺、小腸、卵巣に発現が見られた。この分子は米国国立がん研究所のM.L.Strackeらが自己分泌性腫瘍細胞走化性因子としてクローニングしたsutotaxinとほぼ同じであり、PD-Iαとautotaxinは単一遺伝子からの複数のスプライシングを受けて生じるものである事が明らかになった。ヒトのPD-Iαは染色体8q24.1に局在していた。次に、私どもはPD-Iαが進行期の多発性転移を示した神経芽細胞腫の組織において、発現レベルが高い事を見い出した。さらに、リコンビナントPD-Iαを用いた解析により、神経芽細胞腫の細胞株がPD-Iαに対して走化性を示す事を明らかにした。また、PD-Iαの発現には第1エクソンの上流-254から-287の領域が必須である事をプロモーター・アッセイにより明らかにした。さらに、この領域に結合する核内因子が神経芽細胞腫の核抽出液中に存在する事を示した。 次に、ヒトPD-Iβ遺伝子のクローニングを行った。ラットPD-Iβは腸菅、肝臓、膵臓に強く発現していたが、ヒトPD-Iβはこれらの臓器には発現が見られず、前立腺、子宮に発現していた。また、ヒトPD-Iβは染色体6q22に局在している事をin situ hybridizationによって明らかにした。腫瘍細胞における解析ではヒトPD-Iβ遺伝子はグリオーマ細胞に発現していた。今後、ヒトPD-Iβのヒト・グリオーマの転移、浸潤との関連、さらにヒトPD-Iファミリー蛋白質の走化性促進の分子機構について解析して行く予定である。
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