筋緊張性ジストロフィー症の原因遺伝子産物と考えられているミオトニンキナーゼの実態と役割を明らかにする目的で、平成8年度はウサギ骨格筋の顆粒画分を調製する過程で検出されたHlヒストンキナーゼの部分精製を試みた。その結果、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、燐酸カルシウムゲル吸脱着法により、分子量が約5万で環状ヌクレオチドやCa^<2+>によってその活性に影響を受けない酵素を分離した。そこで平成9年度は本酵素の触媒作用の特性を明らかにすることを試みた。Hlヒストンの燐酸化アミノ酸の分析よりセリン残基の燐酸化が確認されたので、この酵素は蛋白質セリン・スレオニン酵素の一種であることが明らかとなった。そこでこのカテゴリーに属する燐酸化酵素の典型的な基質である各種ヒストン、ミエリン塩基性蛋白、カゼイン、リボソームS6蛋白由来ペプチド、Na^+チャネル燐酸化部位由来ペプチド等を基質としてその特異性を解析した結果、Hlヒストンの他のミエリン塩基性蛋白、S6蛋白由来ペプチド、Na^+チャネル由来ペプチド等を燐酸化しそのスペクトラムはプロテインキナーゼC(PKC)と類似していることが判明した。そこで一次元及び二次元のペプチドマップ法で燐酸化ペプチドのオートラジオグラムを比較したところPKCのそれとよく一致することが示された。これらの結果は今回精製したHlヒストンキナーゼがPKCの触媒部位を含むフラグメントに対応する可能性を示唆しているが、必ずしも一致しない性質も認められ今後のさらに詳細な解析が必要となった。
|