筋緊張性ジストロフィー症の原因遺伝子産物・ミオトニンキナーゼの実体とその作用機構を明らかにする目的で、ウサギ骨格筋のミクロゾーム画分調製途上で検出されたH1ヒストンキナーゼの精製とその性質について検討した。活性を含む分画をDEAE-Sephacel、H1histone-Sepharose、hydroxylapatiteの各カラムを通し、最終的に収率81%で543倍まで精製した。この標品を用いてゲル濾過法と活性ゲル法で分子量を推定すると4.5-5.0万との値が得られた。またH1ヒストンを基質とした燐酸化反応では既知のプロテインキナーゼの活性化因子によっては顕著な影響を受けず、阻害剤の効果ではプロテインキナーゼC(PKC)の阻害ペプチドとカゼインキナーゼIの阻害因子によって活性低下が認められた。次に基質特異性について検討したところ本酵素はH1ヒストンの他、ミエリン塩基性蛋白質、S6蛋白由来ペプチドをよく燐酸化し、その基質スペクトラムはPKCとよく一致した。そこで一次元及び二次元のペプチドマップ法でH1ヒストン由来の燐酸化ペプチドを分離しそのオートラジオグラムを比較したところこれもPKCを用いて得られた結果と類似していた。さらにこのH1ヒストンキナーゼはPKC同様H1ヒストンのC末端側のセリン残基を燐酸化していた。これらの結果は今回精製した酵素がPKCの触媒部位を含むフラグメントである可能性を示唆しているが、必ずしも性質が一致しない点も認められる。今後特異的な抗体の使用あるいは直接の一次構造の解析等によってこのキナーゼを同定するとともにその天然基質の解析が大きな課題である。
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