本年度は、ex vivoの実験系である肝灌流法を応用した“神経-肝"標本を用いて、肝障害に及ぼす肝交感神経作用の解析を試みた。それにより、以下に示す実験結果を得た。 1)灌流系を用いた肝神経刺激による肝障害増強作用の解析:ガラクトサミンを投与して作成した肝炎モデルラットの肝をin situで門脈から定圧で灌流しながら肝神経を電気的に刺激すると、肝からの細胞内酵素LDH及びASTの漏出が急激に増加することが判明した。この増加は、流量を一定に保った灌流システムにおいても認められるため、血流の変化を介したものではない。また、正常の肝では細胞内酵素の漏出は観察されなかった。さらに、神経刺激の代わりに肝類洞細胞を刺激するZymosanを門脈内に注入した場合にも、ガラクトサミン処理ラットにおいて神経刺激と同様に肝障害の増強効果が認められた。 2)神経刺激に伴うノルアドレナリンの放出とレセプターsubtypeの同定:上記の肝灌流系において、肝神経刺激時に交感神経伝達物質であるノルアドレナリンの肝からの放出が観察され、そのレベルは障害肝の方が正常肝よりも高値であった。また肝神経刺激による肝障害増強作用は、α-ブロッカーである塩酸ブトキサミンにより抑制されることから、α-レセプターを介した作用であることが明らかとなった。 3)灌流液中に放出されるTNFα量の測定系の確立:肝細胞死に関与すると考えられるサイトカインであるTumor Necrosis Factor(TNF)のBioassayのため、TNFに感受性を持つWEHI164細胞の培養系をつくり、これを用いて肝から灌流液中へ放出されるTNF活性を測定した。TNF活性は我々の灌流系においても測定可能であった。この活性は正常肝では灌流の時間経過に伴いしだいに増加することが判明した。 以上の結果をふまえて、平成9年度では肝障害の増強作用とサイトカインの関与について組織学的手法および遺伝子学的手法を用いて追究する。
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