カルニチンは、長鎖脂肪酸をアシルCoAとしてミトコンドリア内に輸送し、アセチルCoAへと代謝するβ-酸化系にとって、必須の因子である。金沢大学で発見されたJuvenile visceral steatosis(JVS)マウスは、脂肪肝、低血糖、高アンモニア血症、成長障害、心肥大などの多彩な症状を呈する、遺伝性のカルニチン欠乏マウスであり、ヒトの原発性カルニチン欠損症のモデル動物である。本研究では、JVSマウスの高アンモニア血症の原因である尿素サイクル酵素遺伝子の発現低下の機構を明らかにすることを目的とした。我々は、JVSマウスの高アンモニア血症が肝臓における全尿素サイクル酵素の活性ならびに蛋白量の低下に起因することを見い出し、続いて、その原因が転写の抑制によることを明らかにした。さらに、尿素サイクル酵素遺伝子の転写抑制および成長障害がカルニチン投与で治療できることを示し、自然発症カルニチン欠乏動物としてのJVSマウスの重要性を確立した。本研究では、ラット初代培養肝細胞系に長鎖脂肪酸を加えると、グルココルチコイドによる尿素サイクル酵素遺伝子の転写促進効果が抑制されることから、カルニチン欠乏による血漿遊離脂肪酸濃度の上昇が高アンモニア血症の一因であることを示した。In vitro実験で長鎖脂肪酸はAP-1 DNA結合活性の上昇を起こし、in vivoで現象を再現していた。どのようなシスエレメントと転写因子がJVSマウスの遺伝子発現抑制に関与するかを明らかにするため、マウスカルバミルリン酸合成酵素(CPS-I)遺伝子のプロモーターおよびエンハンサー領域のクローニングを行い、それらの配列がすでに報告されているラットCPS-Iと非常に高いホモロジーを示すことを明らかにした。また、注目すべきはAP-1配列が2カ所に見い出されることである。これらの配列がCPS-Iの発現に関与するかどうか、今後はCPSプロモーター、エンハンサーをもつレポーター遺伝子の、特に発現抑制の機構を解析し、明らかにしたい。
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