骨巨細胞腫瘍とは骨に発生する良性腫瘍の一種で、組織学的には、単核のstromal cellと多核のgiantcellという2種類の細胞成分より腫瘍が構成されているという特徴を持つ。本研究では、骨巨細胞腫瘍のgiant cellがstromal cellの癒合によって発生する事を明かとする目的で、これらの細胞に発現している接着分子の発現をmRNAおよび蛋白質のレベルで検討した。また、GCT培養細胞を抗原としてモノクローナル抗体を作製し、骨巨細胞腫瘍に発現されている抗原と共通の抗原の分布を正常組織を用いて免疫組織化学的に検索してきた。 今年度は、作成したモノクローナル抗体のうち、1D8と命名した抗体の認識する抗原について解析した。免疫沈降法、Western blotting法では、この抗体の認識する抗原は、分子量が43kDであった。この抗原を精製し、内部アミノ酸配列の解析を行ったところhuman argininosuccinate synthasc(AS)と100%一致した。従って、1D8はASを認識する抗体であり、ASは免疫組織化学的検討では、骨巨細胞腫瘍の単核細胞・多核巨細胞、正常破骨細胞や骨細胞に局在する事が判明した。ASは本来、肝臓の尿素サイクルを構成する酵素であるが、近年では、肝臓以外ではシトルリン-NOサイクルを構成する酵素として知られており、NO合成に関与する酵素である。本酵素は、活性化マクロファージで発現する事が知られており、骨巨細胞腫瘍の単核細胞・多核巨細胞に本酵素の発現が見られた事は、骨巨細胞腫瘍とマクロファージ系破骨細胞系が発生的に近縁関係である事を示唆している。また、NOは骨組織では、メカニカルストレスのシグナル伝達物質の一つと想定されており、骨細胞からのメカニカルストレスのシグナル伝達にNOが関与している可能性が示唆された。
|