研究概要 |
動脈硬化病巣の陳旧化・硝子化巣内の内膜平滑筋細胞は消失もしくは減少しているように見受けられるが,原因は必ずしも明らかではない。その機序を究明するため,我々は培養動脈平滑筋細胞,および冠動脈硬化巣組織,大動脈瘤組織を用いて,アポトーシスによる内膜平滑筋細胞消失の可能性を検討した。 培養動脈平滑筋細胞に対するInf-_γ,抗Fas抗体(CH-11), TNF-α等の細胞死誘発効果とDNA断片化を検討した。ヒト冠動脈粥腫切除術によって得られた肥厚内膜のホルマリン固定・パラフィン切片を用いて,in situ apoptosis detectionを目的としたTUNEL法,およびアポトーシス関連物質等の免疫組織化学染色を行った。使用した抗体はFas (UB2), Bcl-2, P-53, c-myc, PCNA, LCA, L-26, UCHL-1,マクロファージ(KP-1),αアクチン(1A-4)等の各モノクロナール抗体。 抗Fas抗体添加によって培養動脈平滑筋細胞は細胞死を来たし,DNA電気泳動でラダーが示された。この細胞死はInf-_γ, TNF-αによって増強された。冠動脈組織切片ではTUNEL法陽性の内膜平滑筋細胞がしばしば認められた。Fas抗原は全例の冠動脈の中膜と内膜の平滑筋細胞に陽性であったが,特に肥厚内膜のほとんどの平滑筋細胞が強陽性を示した。Bcl-2は浸潤リンパ球によく染色されたが,中膜にはほとんど染色されず,内膜平滑筋細胞に軽一中程度の陽性染色を示すものが少数見られた。c-myc陽性細胞も少数認められた。P-53は陰性であった。 以上から,動脈硬化巣平滑筋細胞のFas抗原のリガンドが何に由来するかは不明であるが,同細胞の減少の過程にアポトーシスが関与している可能性が示唆された。
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