研究課題
基盤研究(C)
脳血管性痴呆とりわけ脳内小動脈硬化との関連が注目されている脳深部白質のび漫性軟化を伴う痴呆(Binswanger病含む)の剖検脳を用いて、白質病変の形成機序を病理学的に検討した。17剖検例(平均80歳)の大脳は萎縮し、特に前頭葉や側頭葉の萎縮が目立つ。組織学的に大脳深部白質はび漫性に疎化ないし小空胞を伴った浮腫を示し、膠線維は離開断裂し不完全脱髄像を呈していた。白質病変内の毛細血管およびその前後の細動静脈は壁の高度な線維性肥厚により内腔が狭窄していた。この線維化はIおよびV型コラゲンが主要な成分であり、一部にVIおよび基底膜型IV型コラゲンをみるがIII型は不明だった。白質病変に分布する責任動脈は主として髄質動脈と、さらに基底核へ分布する穿通枝動脈の末梢の一部からなり、本症の髄質動脈は中膜筋細胞が萎縮ないし壊死に陥り、線維化で置換され、ときに高度な動脈壊死像も観察されたが、内膜肥厚による内腔狭窄像は見られず、むしろ壁の脆弱さによって内圧に抗しきれず内腔の拡張傾向を認めるものが多い。電顕的モルフォメトリー検索では中膜内層より外層に高度な壊死が見られた(p<0.05)。一方、大脳穿通枝動脈では、脳内進入部の中枢側では細胞線維性内膜肥厚が、さらに末梢では中膜の萎縮・壊死がみられ、100-300μ直径部前後では動脈壊死像がもしばしば観察された。したがって本症の脳深部のび漫性白質病変の形成には、1)髄質動脈および一部は穿通枝動脈の中膜壊死と線維性硬化・コンプライアンス低下に基づく血流調節機能の失調による低灌流と、2)その末梢の毛細管および細動静脈レベルの高度線維性肥厚による血液・脳実質間の物質輸送障害とが、白質病変の原因として重要とみなされた。さらに後者の高度な線維化の機序について検討していくつもりである。
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