研究概要 |
脳血管性痴呆とくに脳内小動脈硬化との関連が重要視されている脳深部白質のび慢性軟化を伴う痴呆症(Binswanger病含む)剖検脳を用いて,白質病変の形成機序を支配血管のモルフォメトリー検索と脳内動脈およびその周囲の免疫組識学的検討を行った. 本症例の白質病変を支配する大脳実質内外の動脈をモルフォメトリー検索すると,1)脳表および脳実質内の径400μm以上の太い動脈では,内膜肥厚の程度に応じて内腔を保とうとする血管径の代償性拡大とリモデリングが見られ,2)直径200μm以下の細小動脈(髄質,穿通枝動脈)では,壁厚と管径の拡大が相関するも,壁は線維化および基底膜様物質の沈着による肥厚が主体であった.後者の中には,動脈壊死を含む壁病変の高度な例に代償関係の明らかでないものが見られた.白質病変部の細血管(動静脈毛細血管を含む)は高度に線維性肥厚して内腔が挟小化していた.この成分はIおよびV型コラゲンが主要部分であり,一部にIII,VIおよび基底模型IV型コラゲンをみた.動脈壁ではこの線維化は壁の外側に強かった.マクロファージの指標であるCD68(KP-1)陽性細胞の脳動脈周囲の分布をみると,大脳皮質側に比べ,脳深部の細小動静脈周囲には分布が少なく,とくに線維化高度な血管周囲にはわずかであり,老廃物除去能の低下が示唆された. 本症の脳深部の慢性白質病変の形成には,1)髄質動脈および一部は穿通枝動脈の中膜壊死や線維性による壁の適応障害や血流調節機能の失調による低灌流と,2)その末梢の毛細管およびレベルの高度線維性肥厚による血液・脳実質間の物質輸送障害やクリアランス障害が白質病変の原因として重要とみなされた.
|