死後3時間未満の剖検11症例(25歳-75歳)より複合病変の無い粥状硬化病変を採取し、urokinase-type plasminogen activator(uPA)、tissue-type plasminogen activator(tPA)およびthrombomodulim(TM)を生化学的に定量し、それらの活性を測定した。またそれらの大動脈中の局在も同時に観察した。これらの結果を対照群(非硬化例;17歳、25歳)と比較し、また内膜病変を中膜とも比較検討した。 uPA抗原量は全体に低値(対照群0.002±0.003ng/mL(平均±標準偏差);動脈硬化群0.030±0.05ng/mL)で、抗原量、活性とも対照群と動脈硬化群間、あるいは内膜病変と中膜間に有意差は認められなかった。uPAの局在については内膜および中膜平滑筋細胞の細胞表面に弱陽性に認められた。tPAの抗原量と活性はuPAに比べ高値であったが対照群と動脈硬化群間に有意差は見られなかった。しかし、内膜病変と中膜を比べると、内膜病変内のtPAは抗原量(2.105±0.872ng/mL)、活性(0.145±0.047IU/mL)とも、中膜(抗原量1.027±0.366ng/mL、活性0.076±0.019IU/mL)に比し、有意(p<0.01)に高かった。局在については内皮細胞以外にtPAをはっきり認めることは出来なかった。TMも全体に多量に存在していたが、対照群(788±424ng/mL)、動脈硬化群(1298±367ng/mL)あるいは内膜病変、中膜間に有意差は認められなかった。TMの活性は全例で検出し得なかった。免疫電顕によるTMの局在の観察では、内皮細胞は細胞膜上にTMを発現していたが、中膜平滑筋細胞では光顕による観察と同様、細胞質内と細胞膜上に局在を認めた。 これらの結果は、uPAは動脈壁内にびまん性に少量しか存在しないが、tPAは動脈壁内で恒常的に発現しており、主に動脈の生理的現象に関与するだけでなく、粥状硬化内膜病変形成にも関与していることを示唆している。tPAの局在を形態学的に確認することが出来なかったのは、主として用いた抗体の感度の問題と考えられる。またTM活性が検出できなかったのはTMのプロテインC補助因子活性が非常に不安定であることが解っている(Hayashi T et al.Blood 1992;79:2930-2936)ので、組織処理のいずれかの過程で失活したものと思われる。
|