研究概要 |
副甲状腺ホルモン関連蛋白質(PTHrP)の機能を明らかにする目的で副甲状腺の細胞増殖ならびにホルモン(PTH)産生の調節に関して検討した.細胞増殖能は手術切除された副甲状腺(正常10、過形成42、腺腫10、癌7)について、分裂増殖期の細胞核と反応する抗PCNA抗体を用い、細胞100個当たりの陽性率(PI)で比較した.その結果、正常副甲状腺ではPIは0.2±0.09(mean and SE)であった.癌はPTHrP陰性細胞のみから構成され、そのPCNA indexは極めて高値であった(22.3±2.0).過形成も腺腫もPTHrP陽性細胞、PTHrP陰性細胞の両者からなっていた.そして過形成、腺腫のいずれにおいてもPTHrP陰性細胞(過形成:7.6±0.5,腺腫:3.7±0.6)はPTHrP陽性細胞(過形成:1.3±0.2,腺腫:1.6±0.3)に較べて有意にPCNA indexが高値であった.PTH産生についてはラット副甲状腺細胞株(PTr-A)を用い、細胞内のPTHがPTHrPアンチセンスオリゴヌクレオチドによってどの様に変動するか調べた.その結果、アンチセンスPTHrPを添加して培養した細胞はコントロールに較べ細胞内のPTH産生はきわめて低いことが分かった. 以上の結果、細胞増殖能に関する検討からはPTHrPは細胞増殖に関して抑制的に働く可能性が考えられた.一方、PTHrPはPTr-A細胞のPTH産生に関与し、PTH産生の刺激因子である可能性が考えられた.これらの一見相反する結果は以下のような可能性を示していると思われる.そのひとつは、細胞の増殖と分化(PTHの産生能)は相反する現象であるという解釈である.もうひとつはparacrine、即ち、組織局所の特定の細胞で産生された生理活性物質がその周囲の細胞の機能をコントロールするという考えである.PTHrP産生細胞もその周囲のPTHrP非産生細胞をコントロールしているのだと仮定すれば、PTHrPはむしろPTH産生能のみでなく細胞の増殖に対しても刺激因子として働いている可能性も否定できない.これらの解明にはPTHの産生、分泌量を定量的に検索すること、細胞株を用いてPTHrPの細胞増殖能に対する影響を直接調べることが今後必要である。
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