固型腫瘍の中から乳腺腫瘍を対象に、第1、16染色体の変化の頻度と様式および腫瘍の形態との関連をFISH法を用いて検討した。異型度、組織型の異なる72例の乳がんおよび腺腫、乳頭腫、良性葉状腫瘍を含む22例の良性腫瘍における第1、16染色体の変化を検索したところ、がんにおいて第1、16染色体融合体形成を含む数的・構造的異常を示す細胞が優勢なクローンとして高頻度で見られた。第1、16染色体の異倍体形成はそれぞれ74%、49%の頻度で見られ、高異型度のがんではほぼ必発であったが、低異型度のがんでも34%以上の頻度で見られた。第1、16染色体融合体の形成は、1q12の少し遠位と16cen-q11.2間ないし16q11.2-q24間で起きており、がん全体の50%に検出された。第1、16染色体融合体は低異型度の乳がん、管状、乳頭状パターンをとるがんに有意に高頻度であった。一方16cen領域と16q11.2領域の間で切断(break)を示す染色体が26%の乳がん症例で見られたが、この切断は高異型度で、充実性ないし索状パターンをとる乳がんにより高頻度であった。良性腫瘍においては1例の管状腺腫にのみ第1染色体の3倍体形成をみたが、他の変化は見られなかった。第1、16染色体各々の異倍体形成、1;16融合体の形成そして16cen-16q11.2間の切断は染色体の数の増減および特定箇所での染色体の切断と融合がクローナルながん細胞の増殖に先だって起きていることを示唆している。前者は染色体の分離異常、後者はhomologousでない染色体間の組み換えとしてとらえることも可能であった。このような染色体の数と構造の変化を集中的に起こすような機構が、がん発生時ないし発生後の早期に起きている可能性が強く示唆された。
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