前年度に第1、16染色体の構造的異常ががんで特異的に起きていることを乳腺腫瘍の検討で示したが、更に乳癌においてこれらの染色体異常が蓄積していく過程をるために、174例の乳癌において16cen、16q11、16q24、1q12の4カ所に位置するDNAプローブを用いて蛍光in situハイブリダイゼーション法を行い、クローナルな第16染色体の数的異常、第16染色体長腕(16q)の切断部位、および派生染色体der(1;16)の有無を検討した。16q切断は121例(70%)に見られ、近位切断(16cen-q11)が30%(52例)、遠位切断(16q11-q24)が29%(51例)、DNA増幅例4例を含む複合切断が18例(10%)であった。異倍体は105例(60%)、der(1;16)は65例(37%)で検出された。der(1;16)の形成が16q切断例の45%(55/121)で見られたが、その頻度は切断部位の近・遠位に関わらず高かった。第16染色体のセントロメアの数は、近位切断例の82%(43/52)が異倍体、18%(9/52)が二倍体であったが、遠位切断例では57%(29/51)が二倍体、43%(22/51)が異倍体であり、16q切断部位と倍数体形成の間に関連を認めた(p<0.001)。倍数体とder(1;16)の間に関連はなかった。16q切断部位とは種々の臨床病理学的指標との間に中等度までの相関を認めたが、異倍体は組織学的異型度およびリンパ節転移の個数と、der(1;16)は低異型度、管状〜篩状〜索状型、ホルモンレセプター高値、予後良好と、各々強い相関を示した。以上から非相同的染色体交叉、DNA組換えにより16q切断及びder(1;16)等の組換え体が生じると共に、16q切断部位が第16染色体の本数にも影響を及ぼすと考えられた。16q切断、der(1;16)等を生じる非相同的染色体間の組換え過程で、異倍体形成が規定され、組換え体と異倍体のパターンの組み合わせによってがんの形態、転移性及び悪性度を規定するcascadeの存在が考えられた。
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