はじめにマイクロマニュピュレーターを改良した組織マイクロダイセクション法の有効性を確認する目的で採取する細胞と得られるDNA量を調べた。ホルマリン固定パラフィン包埋材料を4ミクロンの厚さで薄切し、我々の方法を用いて組織マイクロダイセクションを行った場合、200-400個の細胞を採取することによって2-3ngのDNAを抽出することができた。理論的に1つの細胞の持つDNA量は12-15pgと推定されるから、上記の採取、抽出量は推定値をもとにした概算と大きな矛盾はない。また数十個程度の細胞数で十分PCRの解析が可能であることもわかった。 この方法で採取したヒトがんのDNAを用いて以下に示す解析を行った。 (1)肺腺がん94例のDNAを組織マイクロダイセクション法を用いて採取し、その染色体欠失をpolymerase chain reaction-loss of heterozygosity(PCR-LOH)法にて2p、3p、9p、17p、17qのかくlocusについて解析した。その結果、小型ながら進行がんと考えられる腫瘍では26.8%の割合でLOHが見つかったが、生物学的に非常に予後の良い、上皮内がんとでもゆうべき腫瘍にも19.8%の割合でLOHが認められ、染色体の欠失は肺腺がんの発がんの非常に早期から起こっている遺伝子異常であることが明らかになった。 (2)開発した組織マイクロダイセクション法を用いて採取したメタノール固定肺がんDNAについてarbitrarily primed PCR(AP-PCR)法を行い、スクリーニング的に個々の肺がんに存在する遺伝子異常を解析した。すると肺腺がんでは染色体7番で欠失が41.7%に認められ、1、8、13番で増幅が40%以上に認められた。扁平上皮がんでは染色体2番の増幅が63.3%に認められた。興味あることに小細胞がんでは染色体22番の欠失が非常に高頻度(84.6%)に認められたので、このPCR産物をクローニングしてさらに詳細にその染色体部位を解析すると、このPCR産物は22q13.3に位置することが明らかとなった。
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