研究概要 |
マウスなどでは内在性レトロウイルスが細胞の分化や機能,増殖あるいは自己免疫疾患や発癌に関与していることが知られている。ヒトでも同様の機構の存在が予測されるが不明な点が多く,当該研究ではヒト内在性レトロウイルスの基本的性格や疾患、特に自己免疫疾患との関係を解明するのを目標に、1コピー型ヒト内在性レトロウイルスHERV-R (ERV-3)に注目して検討を行なった。HERV-Rは以前に明かとしてきたように胎盤のほか副腎で胎児から成人まで恒常的に高発現であり、その局在についてin situ hybridization法を用いて検討を行なった。その結果、3層で形成される副腎皮質全層においてHERV-R mRNAの高発現が確認されたが、副腎髄質にはその発現はほとんど見られなかった。したがって、副腎での高発現は副腎皮質細胞での発現によるものと結論され、副腎皮質細胞への分化や副腎ホルモンとHERV-Rとの関連や原発性Addison病で病因的に関与していることも考えられた。一方、SLEや壊死性血管炎などのモデルマウスで内在性レトロウイルスがその病因となっていることからヒトの場合も類似の疾患との関連の可能性を検討するため血管内皮細胞に注目し、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞をモデルにサイトカインによるHERV-Rの発現誘導の検討を競合的RT-PCR法にて行なった。HERV-Rの発現はIL-1α、IL-1β、TNF-α刺激で増強し、INF-γ刺激により抑制された。この結果はある種の疾患ではその局所の血管内皮にHERV-Rの発現が誘導され、その病態に関わっている可能性を示唆した。HERV-R env領域の組み換え蛋白を用いた実験では、SLE患者を含め一部の血清でこの蛋白と高反応性を示すものも認めた。また、この組み換え蛋白を免疫して作製した単クロン抗体は免疫染色には適さないものの、soluble formの抗原をつかまえるのには有用と考えられた。
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