肝は類洞と呼ばれる特殊な機能毛細血管構造を有しており、このような構造が肝の機能の発現に密に関連している。本研究では、われわれの作製したラット肝類洞内皮細胞を特異的に認識するSE-1抗体を用い、肝の発生過程における類洞の形成機構、および低酸素状態による肝障害の発生と類洞内皮の変化について解析した。 1.肝発生過程における類洞形成 胎生13日目から21日目までのラット胎仔肝を用い、蛍光抗体法によりSE-1の発現を検討した。SE-1陽性細胞は胎生15日目の肝で初めて認められ、その後、胎齢の進展に伴い陽性蛍光はその数や長さが増加し、互いにつながり、胎生20日目以降では成熟ラット肝とほぼ同様の陽性パターンを示した。発生初期肝の血管系として、肝には太い卵黄嚢静脈が認められる。SE-1陽性の初期類洞は、このような卵黄嚢静脈との関連ははっきりせず、未熟な肝実質内に独立して形成されることが示唆された。免疫電顕による観察では、胎生14日目の肝で既にSE-1弱陽性の未分化な類洞内皮が存在することが確認された。また肝細胞の成熟や直接的な関連によりSE-1の発現がより強くることから、SE-1の発現が肝細胞により直接的に調節されている可能性が考えられた。 2.病態における類洞内皮の機能変化 低酸素状態における肝機能障害発生の機序について明らかにする目的で、SE-1抗体とTunel法を組み合わせて内皮細胞のアポトーシスを検討した。実験的な低酸素下条件では、肝細胞内に活性酸素が形成され、それにより類洞内皮細胞が選択的にアポトーシスに陥ることが示された。したがって、低酸素状態における肝障害の発生には類洞内皮のアポトーシスが関与している可能性が考えられる。
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