研究概要 |
1.緒言:近年、我々を含む数グループにより、アルツハイマー病(AD)βアミロイド線維(fAβ)の試験管内形成過程を説明するモデルとして、重合核依存性重合モデルが提唱されている。我々は既に、fAβ伸長の一次反応速度論モデルを確立している。本研究では、AD発症機構の中心に位置する分子と考えられているアポリポ蛋白E(apoE)の、fAβ形成に及ぼす効果について解析した。 2.方法、及び結果:(1)fAβの定量は、チオフラビンTを用いた分光蛍光定量法により行った。(2)βペプチド(Aβ:5-25μMβ1-42,10-50μMβ1-40)をpH7.5,37℃で反応させると、蛍光は特徴的シグモイド曲線を描いて増加し、fAβを形成した。この曲線は、重合核依存性重合モデルに従えば、順に重合核形成相、線維伸長相、及び平衡相より成る。(3)上記反応液に50-500nMのリコンビナントヒトapoEを加えると、上記3相とも、apoE濃度依存性に阻害された。(4)fAβ伸長に対する阻害効果を、上記一次反応速度論モデルを用いて解析すると、apoEはAβと高親和性複合体を形成し、フリーのAβ濃度を減少させることにより線維伸長を阻害することが明らかになった。 3.結語、及び今後の研究展開:本研究により、apoEが脳内fAβ沈着の生理的阻害物質である可能性が示唆された。最近、リファンピシン等の抗酸化剤が、fAβの試験管内形成を阻害することが相次いで報告されている。現在我々は、上記シグモイド曲線を直線に回帰する生化学的プロットを創出し、重合核依存性重合モデルが上記曲線を説明し得ることを証明しつつある。今後は、apoEをはじめとする種々の分子シャペロン、及び種々の抗酸化剤のfAβ形成に及ぼす阻害効果を、上記モデルを用いて比較解析し、脳内fAβ沈着における多様な生理的、及び薬理学的阻害機構を解明する計画である。
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