retプロトオンコジーンは細胞外ドメインにカドヘリン様構造を有するユニークな受容体型チロシンキナーゼをコードしている。その発現をマウス及びラット胎生期において検索すると、腸管神経系や交感神経系などの広範な末梢神経細胞と脊髄の前角細胞などの一部の中枢神経細胞に検出される。また神経系以外では中腎管や尿管芽といった腎臓の発生に関与する部位に強い発現が認められる。イギリスのグループによって作製されたret遺伝子のknock outマウスでは腸管神経細胞の分化を全く認めないこと、腎臓の完全欠損あるいは部分欠損を生じることが報告された。これらの結果より、retプロトオンコジーンは特に腸管神経系の形成と腎臓の発生に重要な役割を果たしていることが推定された。 今回われわれは米国Genentech社のグループと共同研究にてパーキンソン病の治療薬として期待されているglial cell line-derived neurotrophic facotr(CDNF)が、Retのリガンドであることを証明した。GDNFをRetが発現している神経芽細胞腫細胞株の培養上清に加えると、170kDaの細胞表面に発現するRetのチロシン燐酸化が生じた。しかしながらGDNFはRetに高アフィニティーで結合するのではなく、GPIアンカーで膜と結合するGDNFRαと名づけられた細胞表面蛋白にまず結合後、Retの活性化を誘導した。このことはphophoinositide-specific phopholipace C(PIPLC)で細胞をあらかじめ処理すると、GDNFによるRetの燐酸化が生じないことからも証明された。GDNFはさらに神経芽細胞腫においてRas-MAPK係の活性化を誘導できると同時に、一部の神経芽細胞腫細胞の分化を誘導できた。以上の結果より今後GDNF-Ret系と介した神経分化機構の解析が急速に進展するものと期待できる。
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