研究概要 |
胃印環細胞癌の早期における遺伝子異常はほとんど知られていない.胃印環細胞癌についてMSI(microstellite instability)と,癌抑制遺伝子ならびに細胞接着分子のLOH(loss of heterozygosity)に着目し,DNA ploidyと同時に検索を行った.外科切除された胃印環細胞癌25例(早期13例,進行12例)の,ホルマリン固定,パラフィン包埋標本を用いた.50μ切片より腫瘍部と正常粘膜組織を削出しPK処理にてDNAを抽出,以下10箇所のmicrosatellite(D2S123/S136,D3S1067,TP53,D5S299/S82,D16S400/S421,D2S139,D3S1289)についてPCRを施行.polyacrylamide gelにて泳動の後,銀染色にて検討を行った.DNA ploidyについては50μ切片の癌組織から細胞浮遊液を作製しDAPIで染色,顕微測光法にて腫瘍細胞のDNA量を測定した.MSIは早期より約20%の症例にみられ,E-cadherin,β-catenin遺伝子のLOHも早期から約20%に認められたが,癌抑制遺伝子は進行癌1例にAPCのLOHを認めたのみであった.DNA ploidyは早期癌ではほとんどdiploidで,進行癌になるとpolyploidやaneuploid patternが出現するが,MSI陽性例では進行癌でもaneuploid patternはみられなかった.MSIならびに接着分子のLOHは一部の胃印環細胞癌における早期からの遺伝子異常の一つと考えられた.APC,p53の胃印環細胞癌における関与は低い可能性が示唆された.早期の胃印環細胞癌ではDNA ploidyの異常は少なく,進行にともないploidy patternの変化がみられるが,MSI陽性例ではその傾向がなく,その進展の特異性が示唆された.
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