腫瘍血管新生の分子機構解明のため、そのkey stepである低酸素誘発性VEGF産生亢進機序の解析を引き続き行った。解析には、C6 glioma cellを用い我々が確立したin vitro低酸素実験系を用いた。これまでに我々は、human VEGF geneの5′-flanking regionにVEGF geneの低酸素誘発性転写亢進を担う293bpのhypoxia-responsive element(以下、HRE)を同定した。今年度は、このHREに付き、さらに詳細な検索を加えた。まず、HRE(293bp)の配列の解析を行ったところ、HRE中に、erythropoietin(EPO)geneの低酸素誘発性転写亢進制御因子として同定されたhypoxia-inducible factor 1(HIF-1)の結合配列が認められた。そこで我々は、human VEGFの5′-flanking regionを含む低酸素反応性のreporter constructからHIF-1結合配列を削除(deletion)し低酸素反応性の変化を検索した。その結果、HIF-1結合配列を削除されるとreporter constructの低酸素反応性は消失するとが示された。即ち、HIF-1結合配列がEPO geneと同様にVEGF geneの低酸素誘発性転写亢進にも必須の配列であることが示された。また、興味深い知見として、HIF-1結合配列を残しHREの5′側150bpを削除したところ、reporter constructの低酸素反応性は残るが、その反応の程度は低下した。つまり、HREの5′側150bp内にHIF-1結合配列による低酸素反応性をpotentiateする働きをもつ配列が存在することが示唆された。我々は、種々のdeletion constructの作製、electromobility shift assay (EMSA)およびsupershift assayによる検索を通じ、上記のpotentiating sequenceがAP1結合配列であることを明らかにした。以上のとおり、今年度の研究成果は、低酸素誘発性VEGF産生亢進機序の分子機構について新たな知見を与える有意義なものと考えられる。
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