研究概要 |
初年度(平成8年)では、動物細胞に含有されるジアシルグリセロール(DAG)の過酸化物(DAG-OOH)、酸化物(DAG-OH)、未酸化物(DAG)のラット脳プロテインキナーゼC(PKC)に対する活性化作用を検討した結果、過酸化、過酸化DAGは、未酸化DAGに比較して強い活性化作用を有することが明らかとなった。本年度(平成9年)は、精製したPKC分子種6種に対するDAG-OOH、DAG-OH、DAGの活性化作用を比較検討し、DAG-OOHによって特異的に活性化されるPKC分子種を明らかにした。実験には、1-stearoyl-2-linoleoylglycerol(SLG)の過酸化物(SLG-OOH)、酸化物(SLG-OH)、未酸化物(SLG)を代表的なDAG分子種として用いた。その結果、PKCαとδが、DAG-OOHによって特異的に強く活性化されることが明らかとなった。その他のPKC分子種(β、γ,ε、ζ)は、DAG-OOH、DAG-OH、DAGによる活性化に差は認められなかった。また、α分子種ではDAG-OHによる活性化作用がDAGに比較して強かったのに対して、δ分子種では、DAG-OHとDAGの活性化作用は同等レベルであった。細胞内には、過酸化脂質の還元酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-PO)が存在しており、一種の過酸化脂質であるDAG-OOHが還元されてDAG-OHとなる可能性がある。実際、PC-OOHを還元可能なphospholipidhydroperoxide GSH-PO(PHGSH-PO)がDAG-OOHを還元できることを本研究においても確認している。この結果から、細胞内抗酸化酵素(GSH-PO)によるDAG-OOHの作用制御が行われている可能性が強く示唆され、酸化ストレスによる細胞内情報伝達増強においてGSH-POが抑制的な役割を果たしていることが推察された。また、神経系の細胞(ラット副腎髄質褐色細胞腫由来のPC12)に対するDAG-OOH、DAG-OH、DAGの傷害作用を検討した結果、DAG-OOHにおいてのみ傷害作用が観察され、DAG-OH、DAGには全く傷害作用は認められなかった。このことは、上記のδ分子種がDAG-OOHのみに強く活性化されたこととの関連性が疑われる(酸化ストレス傷害におけるδ分子種の重要性)。今後、δ分子種の酸化ストレス傷害における役割、意義の追求が重要な課題となるものと思われる。
|