HIVの感染性をSrc型チロシンキナーゼがどのように制御するかについて研究した。まず、Src型チロシンキナーゼのうち、マクロファージに多く存在することが知られているHckのアミノ末端側半分を発現するベクターを作成し、産生される蛋白をHckNと命名した。同様の構築のSrcチロシンキナーゼは内在性のSrcに対して抑制性に働くことが知られており、優勢劣性変異体となる。HIVプロウイルスNL432とHckNを同時に発現させるとHIVの感染性が約30%に低下することを見出した。HckNのSH2ドメインに変異を入れてもこの抑制効果に変化は無かったが、SH3ドメインに変異をいれると、この抑制効果が完全に失われた。次に、どういう機序でHckNがHIVの感染性を低下させるかを調べるために、VSVのpseudotypeを作成したところ、HckNの影響はまったく認められなかった。このことは、HIVの細胞内侵入にHckNの影響があることを示唆する。そこで、HIVのT細胞に対する侵入効率を測定したところ、HckNはHIVの侵入効率を約30%に低下させていた。ウイルス上のgp120を測定したが、あきらかな差は認められなかった。また、Hckと結合することが知られているNef蛋白を欠失した変異体に対するHckNの影響を調べたが、HckNはこの変異体も野生型同様に抑制した。以上の結果は、HckNがNef非依存性にHIVのgp120を機能的に阻害することを示唆し、逆に、Src型チロシンキナーゼの活性がHIVの標的細胞への侵入に必要なことを意味しているものと思われる。
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