アダプター型癌遺伝子Crkの主たる情報伝達下流因子であるC3Gの活性化機構を解析した。C3Gは、Ras型GTP結合蛋白Rap1/Krev1/Smg21の活性化因子である。そこで、C3GによるRap1の活性化がCrkの存在によりどのように変化するかを解析した。その結果、C3Gは、Crkが存在すると活性化されることが分かった。このCrk依存性C3G活性化には、C3GのCrk結合領域が必要である。しかも、C3GのCrk結合領域を欠失すると、C3Gの活性はCrk存在下でのC3G程度に上昇することを見出した。このことは、C3GのCrk結合領域が、C3GのRap1活性化を負に制御しており、Crkが結合することにより、この負の制御が解除されることを示している。また、Crkの変異体を用いた解析では、CrkのSH2およびSH3の双方が必要であることがわかった。さらに、C3Gに膜移行シグナルを付加してみると、この場合はSH2ドメインは不要であった。したがって、CrkによりC3Gが細胞質から細胞膜へ移行することが、C3Gの活性化の機構であることが本年度の研究により明らかとなった。一方、Crk自身の制御についても研究を進め、上皮細胞増殖因子刺激によりCrkがチロシンリン酸化されること、このリン酸化はC3Gとの解離を誘導すること見出している。これらの結果は、C3GがCrkにより細胞膜へ移行し活性化された後、Crkがリン酸化をうけ、C3Gが離れることを示しており、巧妙なオートシャットオフ機構が存在することを示している。
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