研究概要 |
ライム病感染時に出現する特異的所見の慢性遊走性紅斑(Erythema chronicum migrans =ECM)1921年スウェーデンのAfzelius医師によりマダニ(Ixodes ricinus)寄生後に出現する皮膚症状としてすでに報告されていた。 ライム病は米国でマダニ(Ixodes scapularis)により媒介されるボレリア感染症であることが1970年代に発見され、またその特長的な所見としてこの遊走性紅斑が有毒マダニ寄生部位に現れることが再確認された。 現在世界に病原体はBorrelia burgdorferi sensu stricto,B.garinii,B.afzeliiの3種が分布している。この病原体の種構成は欧米や日本で異なるが、患者に遊走性紅斑は高頻度に出現する。 我々もこの紅斑部組織からライム病の起因菌であるBorrelia burgdorferi sensu lato(主にB.garinii)を検出している。そのためマダニ寄生後にこの所見が出現すればライム病と判定してもよいとの意見も見られる。この紅斑の出現は、旭川医大の人体例からマダニ寄生後約7日間を必要とするものと推測される。この起因菌の感染と遊走性紅斑の出現機構については明確に解明されていない。 感染モデル動物としてウサギ(日本白色種)を使用した。B.gariniiとB.afzeliiで有毒化したシュルツェマダニのコロニーを除毛した腹部に吸着感染群(15頭)、野外で採取したヤマトマダニ吸着群(2頭)、また、BSK培地で増殖した菌体を皮下への注射群(3頭)の3群を作成した。 各ダニの吸着実験はウサギ17個体と皮下に直接注射による感染実験は3個体の合計20個体の動物を作成し、各ダニ吸着の2群はダニ除去後10日、注射群は20日間の観察を行ったが遊走性紅斑はいずれの個体にも観察されなかった。組織学的には真皮内にリンパ球と好酸球の炎症性細胞浸潤を認めた。この原因としては、(1)観察期間が短い、(2)兎は不適な動物、(3)日本産菌体は欧米産より弱毒、などが推測され、今後この点について検討する。
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