研究概要 |
1. 蚊発生源の現地調査を,平成8年度は環境開発の進んだ大阪府千里,岡山県児島,神奈川県鎌倉にて,平成9年度は環境変化の少ない東北地方各地を,平成10年度は自然環境の豊かなロシア沿海州のウスリースク地方を加えて行った.30年前の調査などと比較して,大水域から発生する大動物嗜好性のシナハマダラカ,コガタイエカ,キンイロヤブカや,汚水溜から発生するアカイエカなどが激減し,小水域から発生し小動物嗜好性のヒトスジシマカ.ヤマトヤブカ,キンパラナガハシカなどは環境変化に耐えてむしろ増加傾向にあった. 2. マラリア媒介のシナハマダラカ,日本脳炎媒介のコガタイエカやキンイロヤブカの近年の激減は,発生源の湿原の消失,湿田の乾田化と水管理,農薬散布,有畜農家の消失など農業形態の近代化に起因する.フィラリア症媒介のアカイエカの激減は下水溝の暗渠化などの環境整備に起因する. 3. 東北地方の蚊採集記録を43種にまとめ,オオモリハマダラカ,フトシマツノフサカ,キョウトクシヒゲカを新たに記録した.中国・四国地方の採集記録などを整理中である. 4. 南方(東洋区)系の蚊の北上現象としてヒトスジシマカ,フタクロホシチビカ,キョウトクシヒゲカ,オオクロヤブカの分布拡大,北方(旧北区)系の蚊の減退現象としてヤマトハボシカ,エゾウスカの本州からの後退が若干認められたが,今のところ分布変化は顕著ではなかった. 5. 15,20,25,30℃の恒温糟にて蚊幼虫を個別飼育した.その結果,デング熱媒介のネッタイシマカは今のところ日本に土着していないが,上陸すれば繁殖可能と見なされた.ヒトスジシマカはタイ,八重山,富山産の系統間での発育差は認められなかった.デング熱の流行が将来懸念される.
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