本研究室で維持されてきたヤブカの系統に平成8年度海外学術調査(インドネシア)で得た系統を加え、7種16系統の非休眠卵の耐寒性と耐乾性について室内比較実験を実施中である。供試された種は、Aedes paullusi(分布域:熱帯)、Aedes scutellaris(熱帯)、ネッタイシマカ(熱帯〜亜熱帯)、ヒトスジシマカ(熱帯〜暖温帯)、リバーズシマカ(亜熱帯〜暖温帯)、ヤマダシマカ(亜熱帯〜冷温帯)、ミスジシマカ(冷温帯)である。 蚊の発育と温度との関係を報告した約40編の文献を収集した。扱われている種類はヤブカ属、イエカ属、ハマダラカ属、ハボシカ属、オオカ属、プソロフォーラ属に属する約30種で、現在知られている蚊の種の1%以下であった。蚊全体についての傾向を把握する上での問題は、扱われている種が温帯以北に集中していること、実験室内での系統維持が容易な少数の種に集中していること、古い文献が多く統計的検定に耐え得ないデータが少なくないことである。地球温暖化による分布域の北進が大きな問題になると予想される熱帯に分布する種の発育と温度との関係については、極めて少数の古いデータしか無いことが明らかになった。資料の分析は完了していないが、現在までの結果からいえることは、(1)亜寒帯以北に生息する種の発育限界温度は温帯以南に分布する種に比べて明瞭に低い、(2)温帯、亜熱帯、熱帯に分布する種については、分布域によって発育限界温度に明瞭な差があるとは限らない。
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