本研究室で維持されてきたヤブカの系統に平成8年度海外学術調査(インドネシア)で得た系統を加え、7種16系統の非休眠卵の耐寒性と耐乾性について室内比較実験を実施中した。供試された種は、Aedes paullusi(分布域:熱帯)、Aedes scutellaris(熱帯)、ネッタイシマカ(熱帯〜亜熱帯)、ヒトスジシマカ(熱帯〜暖温帯)、リバーズシマカ(亜熱帯〜暖温帯)、ヤマダシマカ(亜熱帯〜冷温帯)、ミスジシマカ(冷温帯)である。 25℃・長日条件で産卵された卵を長日下で湿度90%と40%に置き、気温は10日間で-5℃まで降下させた。降下中の5℃、0℃、及び-5℃で2、15、30、45、60日後の孵化率を調べた。不孵化卵は漂白し、幼虫が発育している受精卵であることを確認した。対照として25℃・長日・90%または40%に保存した卵の孵化率も調べた。 その結果、下記のことが明らかになった。(1)分布域が熱帯に限定されている2種のヤブカも短期間の凍結に耐える、(2)分布域が熱帯から亜熱帯に及ぶネッタイシマカの耐寒性は更に強い、(3)分布域が複数の気候帯に渡る種では北の系統ほど耐寒性が高い、(4)分布域が冷温帯に限定されているミスジシマカの耐寒性は最も高く、1ヶ月以上の凍結に耐える、(5)耐寒性の強い北に分布する系統や種は耐乾燥性は弱い。これらの結果から、卵の耐寒性はヤブカの分布域を決定する重要な要因であるが、現実の分布域は気候条件が許す範囲より小さい場合があるという結論を得た。
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