研究概要 |
前年度,多数の糞線虫感染者と非感染者について,そのHLAタイプとの関連を検討した。その結果,最も多様性に富み,抗体産生において重要な遺伝的背景と考えられるclass II MHCのひとつであるDRB1について検討を行なったが,特定のHLAタイプでの糞線虫の感染集積を認めることは出来なかった。また,幼虫排泄数からみた感染状態や血清抗体価に及ぼすHLAタイプとの関連についても明らかな結果を得ることができなかった。他方,沖縄では糞線虫の感染にHTLV-1(ヒトT細胞向性ウイルス)の重複感染が重要な影響を及ぼしていることが知られており,今回検討した感染者について,さらに治療効果や血清中の糞線虫特異的IgE抗体価の比較検討を行なった。その結果,糞線虫とHTLV-1の重複感染者の治癒率は,糞線虫のみ感染の者に比べて有意に低く(P<0.05),これまでの報告と同様の結果を得た。また,糞線虫特異的IgE抗体価を測定した結果では,重複感染者の抗体価は糞線虫のみ単独感染の者に比べて著明に低かった(P<0.001)。さらに治癒群と治療抵抗群の間で比較した抗体価は治療抵抗群で低かった(P<0.05)。これらのことより,沖縄における糞線虫の長期にわたる持続感染に及ぼす背景として,住民の遺伝的背景よりもむしろ,HLTV-1の重複感染が重要な要因として介在していると判断された。HLAのタイプが糞線虫の感染,病態,免疫にどのように影響しているかについては,さらのHTLV-1の重複感染の影響を除外した研究条件でさらに検討を進める必要がある。
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