研究概要 |
これまでに,沖縄の多数の糞線虫感染者および非感染者について,PCR-SSO法により白血病のHLAタイピングをおこなった。検討を行なったのは、そのうちで多様性の最も高いclass II MHCのひとつであるDRB1である。各アレルの出現頻度は、糞線虫非感染者で1501,1503,0409,0802の頻度が高く,これに対して,糞線虫陽性者では1503,1501の出現頻度が高いという結果を得た。各アレルの出現頻度を糞線虫非感染者と感染者で比較した結果,1501,0490,0802,1406などが非感染者において感染者よりも高率に認められ,逆に1503,0302,0404,1302,1406の各アレルが糞線虫感染者において非感染者よりも高率に認められた。しかし,その差は統計的に有意の差ではなく,今回の検討では特定のHLAタイプに糞線虫の感染が集積しているといった結果を得ることはできなかった。また,糞便中に排泄される幼虫の数からみた感染状態と,酵素標識抗体法で測定した血清抗体値についても,特定のHLAタイプとの間に関連を認めなかった。 他方,沖縄では糞線虫感染者においてヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV-1)の重複感染が高率に認められることが既に知られているが,これらが糞線虫の治療効果に及ぼす影響や特に血清中のIgE特異抗体価に及ぼす影響についてもその後検討した。その結果,糞線虫とHTLV-1の重複感染者の治癒率は,糞線虫のみの感染者に比べて有意に低く,HTLV-1重複感染者では概して難治性傾向にあることが確認された。また,血清中の糞線虫特異的IgE抗体価は重複感染者の抗体価が糞線虫のみのものに比べて低下しており,さらに治療抵抗性を示すグループで低かった。今回の検討から,糞線虫感染が中間の住民の間で長年にわたって維持されてきた背景として,住民の遺伝的背景よりも,HTLV-1の高率な重複感染が重要な要因であると判断された。
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