1.培養細胞を宿主細胞としたTrypanosoma cruziのin vitro感染モデル系を確立し、寄生虫感染による宿主応答の解析を行ってきた。今年度はアポトーシスを観察するのに適した宿主細胞を検索するため、種々の培養細胞についてアポトーシスの誘導法などを検討した。その結果、マウス由来線維芽細胞ではコルセミドなどの薬剤やFas抗原刺激に対してアポトーシスが起こりにくいことがわかった。また、バ-キットリンパ腫由来リンパ球系細胞株はアポトーシスは誘導しやすいが、T.cruziが感染しにくく、本実験には適さなかった。HeLa細胞、PC12細胞(クロム親和性神経様細胞)は本実験に適しており、今年度はHeLa細胞を用いることにした。 2.アポトーシスのシグナルを伝達する細胞膜タンパク質としてFas抗原の存在が報告されている。そこでHeLa細胞でFasを介するアポトーシスを誘導する実験系を開発した。すなわち、抗Fas抗体(CH-11)をFasアゴニストとしてHeLa細胞に添加したところ、100ng/mlの濃度で細胞死を引き起こすことがわかった。また、HeLa細胞にT.cruziを感染させCH-11による刺激を行ったところ、感染細胞ではアポトーシスの抑制が認められた。 3.Fas抗原を介するアポトーシスを誘導する実験系としてさらに確実な系を開発するため、HeLa細胞にFas抗原遺伝子をトランスフェクトして発現させることを計画していたが、すでに、その遺伝子を発現させたHeLa細胞(HF-1)を入手できたため、これを用いることにした。 4.2の条件を用い、T.cruzi感染HeLa細胞(HF-1)でアポトーシス抑制が見られるか調べたが、HF-1株はFas遺伝子の保持のためネオマイシン存在下で培養するので、T.cruziが感染しにくく明確な結果は得られなかった。 以上、今年度の計画はおよそ80%達成されたと考えている。
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