本年度は、京都府の患者発生地で疫学調査を行うとともに、共生ツツガムシ種が推定できたOt株の血清型特異抗原蛋白遺伝子の比較を行った。 1、京都府岩滝町でツツガムシの未吸着幼虫を採集し、蛍光抗体法でOt保有率を算定したところ、フトゲツツガムシ(以下単にフトゲ)にのみ23.8%という高率の保有率を記録し、この地区でのベクターがフトゲであることを明らかにした。 2、岩滝町の野鼠から分離したOt株の血清型特異抗原蛋白遺伝子の部分塩基配列は、我が国でフトゲ、及び患者から、韓国で患者から分離されたGilliam型の株と同一であり、中国で分離された株ともほぼ同一であり、近縁の株が東アジアに広く分布していることが示唆された。また、これによりGilliam型のOtがフトゲに共生することが示唆された。しかし、韓国、中国でのベクターは不明である。 3、岩滝町で採集したフトゲよりOt保有の系統を確立することに成功した。この系統は我々が十年来飼育しているもう一つのKarp型Ot保有系に比べ、Otの垂直伝播率が低く、その理由を検索中である。 4、フトゲが棲息しない北海道野幌地区の野鼠から分離したOt株の型特異抗原蛋白遺伝子は、上記の京都の株と1塩基の相違のみであった。よって、フトゲに共生する株と極めて近縁の株が他種のツツガムシにも共生していることが示された。 フトゲにはGilliam、Karp型が共生するとされており、今回の知見もそれを支持しているが、Gilliam型はフトゲのみでなく他種のツツガムシにも共生していることが示唆された。現在、アラトツツガムシより分離したOt株などについて同様な解析を行っており、ツツガムシ種とそれに共生するOtの血清型との関係に新たな知見が得られるものと期待する。
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