つつが虫病は、有毒ツツガムシ幼虫がヒトに吸着した後に、幼虫体内のOrientia tsutsugamushiが人の体内に侵入して発症する感染症である。また媒介者であるツツガムシは幼虫期のみ寄生することから幼虫の行動と幼虫体内のリケッチアの動態を観察することは極めて重要である。実験に使用した有毒ツツガムシ幼虫は、愛知県内の患者発生地域内で捕獲した野鼠に寄生していたLeptotrombidium pallidumに由来したもので、これを室内飼育し有毒コロニーをその中から分離した。得られた有毒ツツガムシ幼虫の一匹をヌードマウスに吸着させるとマウスは3週間後に感染死した。幼虫を12時間以上吸着させたマウスは全て感染死した。6時間吸着させたマウスは5匹中4匹が感染し、1匹は発症しなかった。3時間以下の吸着時間では感染は成立しなかった。これらから有毒ツツガムシ幼虫に6時間以上の寄生を受けた場合は感染の可能性が極めて高い。 Orientia tsutsugamushiを保有するツツガムシ幼虫を電顕的に観察するとそのほとんどの組織にリケッチアを認めるが、特に唾液腺細胞内には他の組織に比べ多数のリケッチアを認める。未吸着幼虫では腺腔へのリケッチアの脱出は全く認められなかったが、吸着24時間後の唾液腺の腺腔内には細胞から脱出したリケッチアが、所々で観察された。腺細胞の遊離面側には分泌顆粒と共に放出直前と考えられるリケッチアも認められた。唾液腺の遊離面には多数の微絨毛が存在し、その間隙には放出直後と考えられる宿主細胞膜で被われたリケッチアが認められた。分裂過程にあると思われるリケッチアも稀に腺腔内で観察された。腺細胞からのリッチケアの放出は、細胞膜を細胞内から腺腔側に押し上げるようにしてリケッチアが腺腔側に移動し、やがて細胞膜をその外側に被った状態、いわゆる‘Budding'で放出される過程が電顕的に観察された。
|