細菌性チオール活性化溶血素であるボツリノリジン(BL)およびウエルシュ菌θ毒素の肺循環、特に微小血管内皮細胞機能に対する作用を、ラットの単離摘出肺と肺動脈の環状標本および肺微小血管内皮細胞の初代培養を用いて以下の結果を得た。 1.BLは極微量で(1赤血球溶血単位(HU)/ml≒0.5ng/ml)でラットの単離摘出肺に対して有意な潅流圧の上昇と著明な浮腫をもたらした。 2.θ毒素も1HU/mlの濃度でBLと同様の変化をラットの単離摘出肺に惹き起こした。 3.これら細菌性チオール活性化溶血素による単離摘出肺の著しい浮腫は抗ヒスタミン剤である塩酸ジフェンヒドラミンを潅流駅に添加しても抑制できなかった。 4.アドレナリン作動性薬剤であるフェニレフリンによって惹き起こされるラットの肺動脈環状標本の定量的収縮はBLあるいはθ毒素処理によってほとんど影響されなかった。 5.血管内皮細胞が正常である肺動脈環状標本のアセチルコリンによる弛緩は、BLあるいはθ毒素処理によって著しく抑制された。 6.BLおよびθ毒素は培養肺微小血管内皮細胞に対して著明な細胞致死活性を有していた。 以上の結果より、BLおよびθ毒素は肺循環系における血管内皮細胞に作用して血管透過性の著しい上昇をもたらすことが解った。これらの結果はクロストリジウム性ガス壊疽の重症例にみられる成人呼吸促迫症候群(ARDS)の病態形成にチオール活性化溶血素が深く関係していることを示唆している。
|