細菌性チオール活性化溶血素であるボツリノリジン(BL)およびウエルシュ菌θ毒素の肺循環におよぼす影響を、動物個体と大動脈の環状標本および血管内皮細胞の初代培養を用いて薬理学的に解析するとともに病理組織学的にも検討を加え、以下の結果を得た。 1.ラットに対する致死活性はボツリノリジン(BL)がθ毒素に比べて10倍程度高かった。またBL中毒動物では左心不全が、一方θ毒素中毒動物では右心不全が主症状であった。 2.摘出潅流心臓の冠循環系に対する影響はBLの方がθ毒素より強かった。 3.ラットの大動脈環状標本のフェニレフリン濃度依存性収縮はBLあるいはθ毒素処理によってほとんど影響されなかったが、アセチルコリンによる血管内皮細胞依存性弛緩がBLあるいはθ毒素処理によって著しく抑制された。 4.培養血管内皮細胞はθ毒素およびBLに対して著しく感受性で、毒素の最少致死濃度はVero細胞に比べて約1/30-50であった。 5.θ毒素の静注によって急性中毒死したラットの肺は著しい浮腫・欝血および部分的出血を呈していた。 以上の結果より、BLは主として心臓の冠循環系の、一方θ毒素は肺循環系における血管内皮細胞に作用して血管収縮調節機構を障害し血管透過性の著しい上昇をもたらすことが解った。これらの結果はクロストリジウム性ガス壊疽の重症例にみられる成人呼吸促迫症候群(ARDS)の病態形成にチオール活性化溶血素が深く関係していることを示唆している。
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