研究概要 |
細菌内寄生細菌の病原性発現には,マクロファージ等の食細胞のもつ食菌機構に対する細菌のエスケープ機構が重要な役割を果たす。本研究では,Yersinia enterocoliticaの食菌抵抗性と食細胞内増殖におけるストレス蛋白質の役割を検討し,以下の成果をあげた。(1)環境ストレスおよびマクロファージ細胞内ストレスに同時に感受性となった多数の変異株を分離し,それらの性状を解決した結果,マクロファージ細胞内増殖に必須な本菌のストレス蛋白質遺伝子gsrA(global stress requirement)を見い出した。gsrAは,49,500ダルトンの分子サイズをもつ塩基性蛋白質を支配していた。蛋白質GsrAは,細菌細胞内でシグナルペプチドをもつ前駆体として翻訳された後、プロセッシングをうけ,46,800ダルトンの蛋白質としてペリプラズムに局在する分泌型蛋白質であった。ホモロジー検索の結果から,GsrAは,セリンプロテアーゼであることが明らかとなった。 (2)マクロファージに貪食され細胞内で増殖中のY.enterocoliticaが合成する蛋白質を標識し,2次元ゲル電気泳動により解析した。その結果,マクロファージに貪食によりGsrA蛋白質の合成が誘発されることが明らかとなった。さらに,誘発は転写レベルで起こることが明らかとなった。gsrA遺伝子は,σ^<24>因子認識型のプロモーターに導かれることから,σ^<24>因子は熱ショックをはじめとする環境ストレスに加え,マクロファージ内応答する可能性が示唆された。 本研究により,細胞内寄生性を有するY.enterocoliticaは,マクロファージに貪食された後,細胞内ストレスを感知しgsrA遺伝子の発現が誘発されること,さらに増加したGsrA蛋白質が本菌の食菌抵抗性に必須な役割を果たすことが明らかとなった。
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