研究概要 |
細胞内寄生細菌の病原性発現には、マクロファージ等の食細胞のもつ食菌機構に対する細菌のエスケープ機構が重要な役割を果たす。本研究では、下記の細胞内寄生細菌の病原性発現におけるストレス蛋白質の役割を検討し、以下の成果をあげた。 (1)Y.enterocoliticaのストレス蛋白質遺伝子gsrAの発現機構:昨年度までの研究において、本菌のマクロファージ細胞内増殖に必須なストレス蛋白質GsrAを発見し,その性状と機能を明らかにした。本年度は,このgsrA遺伝子の発現機構を解析した。その結果,gsrA遺伝子は,シグマ24によって認識されるプロモーターに導かれ,その発現は温度上昇などの環境ストレスや,マクロファージ内ストレスによって誘発されることが明らかとなった。 (2)L.monocytogenesの病原性発現におけるストレス蛋白質DnaKの役割:本菌はマクロファージの殺菌作用を回避することが可能であるが,その機構は他と異なり,貧食直後にファゴソームを溶かしマクロファージ細胞質に溶出し,そこで増殖する点で際だっている。この食菌抵抗性におけるストレス蛋白質DnaKの役割を明らかにするために,本菌のdnaK遺伝子領域をクローニングし,まずその遺伝子構造を明らかにした。DNA塩基配列から,dnaK領域はhrcA-grpE-dnaK-dnaJ-ORF5の5個の遺伝子から成るオペロンを形成していることが明らかとなった。次にdnaK遺伝子挿入変異株を分離し食菌抵抗性ならびに環境ストレス抵抗性を検討した。その結果,dnaK遺伝子は,本菌の39℃以上の高温環境,およびpH4.0以下の酸性環境下での生残に必須であることが明らかとなった。さらに,マクロファージに貧食された後,初期の段階での生存に関わることが明らかとなった。
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