研究概要 |
細菌は,生体への感染に際して様々なストレスに曝される。従って,感染宿主内での細菌の生育および病原性発現には、ストレス蛋白質が重要な役割を果たす可能性を考えることができる。感染初期の生体防御機構の中心であるマクロファージ(MΦ)等の食細胞による殺菌作用は,細菌が感染時に遭遇する最も過酷なストレスであり、細胞内寄生細菌とってMΦでの殺菌機構からのエスケープと増殖能は、重要な病原因子と考えられている。このような観点から,異なるエスケープ機構を持つ2種の細胞内寄生細菌を用いて,MΦ内での細菌の増殖におけるストレス蛋白質の役割解明を目的として本研究を行い、次のような成果を得た。(1)Yersinia enterocoliticaは、MΦに貪食されると、殺菌物質の産生を抑制しながらファゴソーム内で増殖するが、その際誘発されたストレス蛋白質の一つであり、ペリプラスム極在型プロテアーゼGsrAが、その増殖に必須であることを明らかにした。(2)Listeria monocytogenesは、貪食されると極めて早い時期にファゴソームを脱出し、細胞質内で増殖する。このようなエスケープ機構を持つ細菌は、貪食後ストレス蛋白質の合成を誘発しないことを明らかにした。そこで、平常時においても産生されるストレス蛋白質DnaKの役割を検討した。(3)dnaK遺伝子のクローニングを行い、hrcA,grpE,dnaK,dnaJ,orf35,orf29の6つの遺伝子からなるオペロンの存在を明らかにした。(4)dnaK挿入変異株を分離し、MΦ内増殖能を検討した結果、シャペロン機能を持つストレス蛋白質DnaKは,本菌のMΦ内増殖には必須ではないが,貪食過程に関与することが明らがとなった。これらの研究を通じて,細菌の病原性発現に関わる菌種特異的な機構を超えた普遍的な機構の存在を明らかにすることができた。
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