研究概要 |
BDVのヒトにおける存在様式を明らかにすることを目的に、ヒト末梢血中BDV遺伝子の検出・解析を行い、加えて存在様式と密接に関係するウイルス複製機構の解明のため主要ウイルス抗原の核移行機構を検討した。 健常者(Med. Microbiol. Imuunol., Kishi et al.)、精神分裂症患者(FEBS Lett., Kishi et al.)および感情障害患者(投稿中)の末梢血単核球画分について、BDV p24 RNAの検出をRT nested-PCRで行った。その結果、精神分裂病やうつ病の患者は健常者の比べ有意に高いBDV p24 RNA陽性率を示した。さらに、それらの遺伝子解析で、BDVは個々の個体内(PBMC)で遺伝子変異を繰り返し、多様な構造のp24抗原を産生している可能性が示唆された。その反面、アミノ酸レベルでは、ヒトBDV p24の共通(consensus)配列はウマBDVと同じでヒトBDVに特有の配列は見出されず、BDVが人畜共通ウイルスである可能性が示唆された(J. Virol., Kishi et al.)及び投稿準備中)。しかしながらその証明にはウイルスゲノム全体を解析する必要があることから、全長ゲノムcDNAを効率良く増幅する方法(long PCR)を開発した(Microbiol. Immunol.,印刷中)。 ウイルスゲノム複製の最小単位であるリボヌクレオプロテイン複合体(RNP)の構成因子であり、複製の場である核に存在することが必須であるヌクレオプロテイン(p40)とRNAポリメラーゼ(Lタンパク質)の補助因子と目されるホスフォプロテイン(p24)の核移行機構を解明した。即ち、p40は他のウイルス抗原の介在なしな塩基性アミノ酸に富む2つの核移行シグナル(NLS) (163-KKRFK-167と338-RYRRREISR-346)に依存して核移行すること、加えて、それぞれのNLSが独自に核移行に働いていることを見出した(BBRC, revision中)。同様にp24も単独で核に移行したが、それが予想されるNLSとしての塩基アミノ酸配列(RRERPGSPRPRK)に依存するかについては、現在p24変異体を用いて検討中である。一方、NLSを欠失したp40はp24存在下でのみ核に移行することから、これらのウイルス抗原は複合体を形成し核移行することが明らかになった(投稿準備中)。 現在、真核細胞発現プラスミドでLタンパク質の発現を試みているが、今後、p40、p24、Lタンパク質およびゲノムRNAなどのRNP構成因子の相互関係や機能を分子レベルで解析し、BDV複製機構を解明する。また、生体試料で認められた多様な構造のウイルス抗原をin vitroウイルス複製系に導入し、生体内におけるウイルスの存在様式を検討する。
|