JCウイルス(JCV)はヒト集団で蔓延しているが、大部分のヒトに対しては病原性を示さない。しかし、エイズ患者など、免疫が低下した患者においては進行性多巣性白質脳症(PML)を惹起する。PML発症に関しては、弱毒JCV(原型JCV)が患者体内で、PMLを発症させる強毒JCV(PML型JCV)に変化すると現在考えられている。原型JCVからPML型JCVへの変化は、ゲノム上の調節領域に起きる塩基配列の再編成(欠失と重複)である。本研究の第一の成果は、原型JCV・DNAをCOS-7(SV40のT抗原を発現しているサル腎細胞)にトランスフェクションすることにより、原型JCVを初めて試験管内で増殖させるのに成功したことである。原型JCVはヒトの腎で増え、尿に排泄されるが、今回原型JCVの感染性が証明されたことにより、尿中の原型JCVがヒトへの感染源なっていることが示唆された。現在COS-7を用いて、尿中JCVの感染性を直接検討している。また、COS-7で増殖する際に、原型調節領域はほとんど変化しないが、PML型調節領域は塩基配列の再編成を起こすことが判明した。このように、この系を用いて原型JCVのウイルス学的な性状を調べることが可能となった。本研究の第二の成果は髄液を用いたPMLの診断法を確立したことである。我々の方法はJCV・DNAの調節領域を増幅するので、原型かPML型かの区別ができる。また、検出感度も高く(髄液25μl中に1分子のJCV・DNAが存在すれば検出できる)、JCVの全ての亜型を検出できる。脳で増えたJCVが髄液中に漏れ出ることも明らかとなった。第三の成果はJCVの持続感染を証明したことである。即ち、同じ患者(約20名)から5年から6年の間隔をおいて採取した尿から、同じ株を検出した(株の同定は塩基配列の比較により行った)。また、長期滞在の外国人の尿から回収したJCVは日本には検出されない亜型に属することを示した。これらの結果から、ヒトは子供の時に感染したJCVを生涯持ち続けることが明らかとなった。
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