1991年以降、ニワトリ血球凝集能を欠くインフルエンザウイルス(H1、H3両サブタイプ)が分離されるようになり、年々その数が増している。本研究ではこの「新たなレセプター特異性」のメカニズムを明らかにするため1991年以降に分離されたウイルスをグループI :ニワトリ、ガチョウ両血球に対する凝集能を維持しているウイルス、グループII :ニワトリ血球に対する凝集能を失いガチョウ血球に対する凝集能を維持しているウイルス、に分け解析を行い以下の結果を得た。 (1) H1、H3型HAを各々発現ベクターを用いてCos細胞上で発現させ各HAの血球吸着能を測定した結果、両亜型の両グループHAは共にニワトリ血球に対する吸着能を失っていた。これは、グループI、IIの血球凝集性の違いがHA上のアミノ酸の違いによるものではなく、HA以外のウイルス蛋白質による事を示唆している。 (2)グループI、IIのHAがニワトリ血球との結合能を失った原因を明らかにするため、発現系、部位特異的変異法を用いて解析を行った。その結果、H1、H3ともにHA上のレセプター結合領域に生じたアミノ酸変化すなわち、H1HA : 225番目のアミノ酸の変化(グリシン→アスパラギン酸)が、またH3HA : 190番目のアミノ酸変化(グルタミン酸→アスパラギン酸)が原因である事が明らかとなった。 (3)HA1領域のアミノ酸配列を基にした進化系統樹から、(2)のアミノ酸変化はH1では1986年以降、H3では1990年以降に生じ、その後ニワトリ血球に対する凝集能の喪失という性質とともに今シ-ズンまで受け継がれている事が示された。 (4) H1ウイルスでは、グループIとIIのウイルスのニワトリ血球凝集性の差はHA上の糖鎖がウイルスのノイラミニダーゼにより切断されるか否かによる可能性が強く示唆された。
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