本研究においては既に、HCVの非構造蛋白NS3のアミノ末端側を含むプラスミド(p5')を導入することにより、マウス細胞NIH3T3が形質転換を起こし、さらにヌードマウスへの接種で腫瘍が形成されることから、HCV-NS3に腫瘍形成能があることを示している。今年度の研究では以下の3項目について解析を行い、幾つかの知見を得た。(1)間接蛍光抗体法によって発現NS3の存在部位を解析した結果、発現NS3蛋白は細胞質とくに核周辺部に多いことが明らかになった。(2)マウス細胞の他にヒト肝細胞由来株KN73細胞にp5'を導入したところ、細胞増殖性の変化はみられず、対照細胞と比べ同様の増殖曲線であった。KN73細胞とNIH3T3細胞との差異については細胞の感受性が異なること、及びNS3遺伝子による細胞形質転換能は強いものでは無いことを示唆している。またHCV-NS3とp53とを同時発現させたNIH3T3細胞においては増殖性はp5'導入細胞に比べ低く、また腫瘍形成能についても抑制されていることが分かった。この事実から、NS3の形質転換活性に対してp53による抑制効果が示唆され、細胞内におけるp53とNS3蛋白との相互作用が推定された。しかしながら、(3)免疫沈降法による宿主細胞内NS3結合蛋白の検出、GST-NS3を用いた方法等の解析ではNS3とp53との直接的結合の事実は得られなかった。従って、別の宿主蛋白の介在がNS3とp53の作用の中にあるものと推察された。今後、NS3結合蛋白を各種細胞株から検出し、それらの形質転換における役割について解析をすすめる。
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