研究概要 |
本研究においてはC型肝炎ウイルス(HCV)の非構造蛋白NS3の細胞への影響を調べるために、リポフェクチンを用いた遺伝子導入法を行い、NS3領域遺伝子断片導入細胞の性質を解析した。NS3、特にアミノ末端側(NS3-N)を導入されたマウス細胞(NIH3T3)は形質転換を起こし、細胞増殖性の増加、さらにそれらの形質転換細胞を接種することにより、ヌードマウスに腫瘍が形成された。しかしながらNS3-N領域の導入とともにp53遺伝子を導入させると、細胞の増殖性は元の親細胞と同じレベルとなり、ヌードマウスでの腫瘍形成もみられなかった。即ちHCV-NS3-Nによる腫瘍形成がp53過剰発現によって抑制された(投稿準備中)。結果からHCVのNS3とp53との相互作用が推定された。試験管内(in vitro)での結合を調べるためにGST-(HCV)NS3の融合蛋白を作製し、それと細胞内蛋白との結合を調べたが、p53との直接的結合は確認されなかった。その代わり、90kDa蛋白がGST-NS3と結合することが示された。90kDa蛋白の性質については解析中である。他方で抗ウイルス剤の検討を行った。HCV感染による肝細胞癌のプロセスにはウイルス持続感染が基盤にあることが知られていることから、この持続感染ウイルスを除去できれば、肝癌発生をとめることができると予想される。こうした、HCVの増殖抑制に作用する抗ウイルス剤の開発のために、HCVと類似のフラビウイルスである日本脳炎ウイルス(JEV)を用いて検討を行った。中でも南米産樹皮に含まれるフラノナフトキノン(FNQ)はウイルス増殖を阻害することが明らかになった。FNQは細胞毒性(副作用)が弱いことから、HCVに対する有力な抗ウイルス剤の候補といえる(Takegami et al.,1998)。今後HCVによる細胞癌化の機構のなかで、NS3とp53その他の宿蛋白との相互作用をあきらかにし、HCV除去を含め、癌化阻止のための方策を検討する。
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