インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)のレセプター結合部位近傍に存在する糖側鎖の果たす役割を解析するため、A/USSR/77/(H1N1)株とA/Port Chalmers/73(H3N2)株のHA geneをM13ベクターにクローニングして、部位特異的変異導入法によってさまざまな変異HAを作製した。H3HAの頭部すなわちレセプター結合部位周辺には2このN-glycosylation部位が存在するため、それぞれの糖鎖を欠いたHAと両鎖を欠いたHAの計3この変異HAを作製した。H1HAでは頭部に4このN-glycosylation部位が存在するため、1〜4この糖鎖を欠く変異HAは15通りの組み合わせが考えられるが、現在まで1〜2この糖鎖を欠いた8種の変異HAを作製した。これらの変異HAはSV40ベクターを用いたCV-1細胞での発現系で、野生株のHA同様、効率よく発現され細胞膜表面に輸送された。それぞれのHAの赤血球吸着活性をビブリオコレラのノイラミニダーゼの処理前後で比較検討した結果、除去した糖鎖の位置、数によって様々な吸着活性を示し、この部分の糖鎖がHAのレセプター結合活性に大きな影響を及ぼすことが確認された。しかし、H7HAで見られたような単純な相関関係はH1とH3のHAでは見られず、一つの糖鎖の除去によって他の糖鎖のプロセッシングが影響を受けることも考慮に入れる必要があることが示唆された。今後、各変異HAの糖鎖がhigh-mannose typeかcomplex typeかを決定し、レセプター結合活性の制御と糖鎖の役割が総合的に理解できるか否かを明らかにしたい。
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