これまでに、私は、IL-2のIL-2Rを介した増殖誘導シグナルには少なくとも3つの独立した、src型チロシンキナーゼの活性化によるc-fos/c-jun遺伝子の転写誘導、c-myc遺伝子の転写誘導、およびbcl-2遺伝子の転写誘導に至るシグナル伝達経路が存在することを明らかにした。 1)本年度は成人T細胞白血病の発症メカニズムとして、これらのIL-2増殖誘導シグナルに重要なシグナル伝達分子が関与していることを明らかいした。成人T細胞白血病はHTLV-Iウイルスの感染が原因であり、このウイルスの転写活性化因子p40^<tax-1>によって種々の細胞遺伝子が転写活性化されることが明らかとなっている。しかしながらp40^<tax-1>がどのようにして細胞をトランスフォームするのかは不明であった。今回、HTLV-Iウイルスのp40^<tax-1>の細胞増殖誘導への関与について、これらのIL-2シグナル伝達経路に重要なシグナル伝達分子との関係を調べ、検討を行った。その結果、成人T細胞白血病の発症メカニズムとして、p40^<tax-1>がIL-2増殖シグナル伝達に重要なシグナル伝達分子lckおよびc-myc遺伝子と協調的に働いて、T細胞のIL-2非依存的増殖を誘導している可能性があることが示唆された。 2)すでに私はIL-2のIL-2Rを介した増殖誘導シグナルのうち、bcl-2遺伝子の転写誘導に至るシグナル伝達経路はIL-2非存在下でのapoptosisの阻害に働いており、このシグナル伝達経路はJakキナーゼを介するシグナル伝達経路とは独立していることを示した。本年度は、新たにBcl-2結合タンパクであり、apoptosis阻害作用を有するBAG-1の遺伝子がIL-2刺激により誘導され、このシグナル伝達経路はIL-2Rβ鎖の細胞増殖誘導に必須のSer-rich領域を介すること、また、Jakキナーゼを介するシグナル伝達経路とは独立していることを明らかにした。
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