研究概要 |
塩化第二水銀(HgCl2)を0.5,l,2および4mg/kgの割合でWistar雄性ラットに皮下投与後、本金属の標的部位である腎臓におけるアルギニン代謝酵素である一酸化窒素合成酵素(NOS)およびアルギナーゼII(AGII)の活性変動を検討した。その結果、 1) 無処置時でのNOSおよびAGIIの比活性はそれぞれ9±5pmol/mg/minおよび398±61nmol/mg/minであった。 2) HgCl2を処理するとNOS活性は殆ど影響を受けなかった。このことはHgCl2処理ラット尿中NO代謝物の排泄量からも支持された。 3) 一方、AGII活性は顕著に低下し、たとえば1mg/kg投与群、投与後48時間でのAGII活性は対照値のわず31%であった。 4) 部分精製したAGIIを使用して、HgCl2による本酵素の直接的な活性阻害を調べた結果、1mMの濃度条件下においても殆ど活性は変動しなかった。 5) イムノブロット分析ならびにRT-PCR分析の結果より、HgCl2処理によるラット腎臓中AGII活性の低下は、その遺伝子の減少によるものではなく、AGIIタンパク質含量の低下に起因することが示された。 6) さらにHgCl2投与ラット腎臓中アルギニン(NOSおよびAGIIの基質)およびオルニチン(AGIIの生成物)含量を測定した結果、対照値に比較してアルギニンの場合は1.4倍有意に上昇するのに対して、オルニチンの場合は逆に13%減少(ただし有意差はない)することが判明した。 以上の結果より、先に明かにしたメチル水銀によるNOS活性変動の結果と異なり、無機水銀はNOSには殆ど影響を与えないが、AGII活性を転写後修飾によりそのタンパク質含量を低下させる重金属であることが明かとなった。 また無機水銀はアルギニンの分解系を阻害することで、腎臓内アルギニン量を定常レベルより上昇させることも示された。
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