パプアニューギニアの複数の集団から収集した生体試料の元素分析を通じ、必須元素の栄養状態と汚染元素の曝露状態の相互関連が個々の集団の人類生態学的特性の違いによりどのように変動しているかを明らかにする研究の一環として、本年度は、マヌス州バロパ諸島に居住する集団(バロパ族)355人(男性158人、女性197人)より収集した血清試料を用い、必須ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、イオウ)および微量元素(鉄、銅、亜鉛)の分析を行った。この地域は、近代化の進行が比較的早くから始まり、伝統的な食物から輸入食物への依存度が増加してきている。これまでに分析を行ったより伝統的な生業活動に依存して集団(ギデラ族)と比較した場合、必須ミネラル濃度については顕著な差は見られず、これらの元素は摂取食物の違いに関わらず血清中では一定に保たれていることが示された。血清中亜鉛濃度の平均値は男性0.74、女性0.71μg/mlであった。亜鉛の栄養状態に関しては、ギデラ族の分析結果(男性0.66、女性0.62μg/ml)から、伝統的な集団では、その生物学的利用効率が低い植物性食物への依存度が高いことより軽度な欠乏状態にあることが示されている。バロパ族の場合、平均値はこのギデラ族の値を上回っているものの、正常値の下限とされている0.7μm/ml未満のものが男性で41%、女性で50%おり、近代化に伴う食生活の変化が進行している集団においても、依然としてその欠乏が問題であることが明らかとなった。また、血清中鉄濃度の平均値は男性0.93、女性0.76μg/mlで、トランスフェリン飽和率からみた鉄欠乏者割合は、男性で6%、女性で24%であった。ギデラ族同様、特に女性で鉄の低栄養状態が問題になると判断され、その摂取量に加え彼らの高いマラリア感染率が鉄の栄養状態に影響しているものと考えられた。一方、血清中銅濃度は欠乏が問題となるレベルではなかった。
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