錫は古くには塵肺、中毒、皮膚障害を生じる有害物として扱われてきたが、近年正体内での必須性が証明され、動物実験から成長に関与することが解っている。このため、環境中錫の評価および生体内錫の評価が必要となってきている。しかし、通常の誘導結合プラズマ質量分析法による錫の測定には原子干渉の問題があり、検出誤差が大きく、高感度の測定には技術的な問題があった。そこで、従来困難であった錫の分析を、水素化物-誘導結合プラズマ質量分析法を用いて検出する方法を検討した。今回用いた水素化法は、水素化錫(SnH_4)の原子量が123となるため単一のデータとして検出でき、水素化を行った条件下で他元素の干渉は受けにくく、超微量での定量が可能となった。使用した機器は、市販の気液分離器を誘導結合プラズマ質量分析装置に接続して用いた。キャリアー液には、1%の塩酸を含む飽和ホウ酸水を用いた。条件の最適化の検討であるが、キャリアーガス(Ar)の流量は、1.05-1.15L/minにて最大値をとった。還元剤としてのホウ酸水素ナトリウムの濃度は0.1%以上で良好な分析信号を示した。反応用アルカリとしての水酸化ナトリウムは0.05%が最適であった。検出限界は数10pptオーダーであった。いずれも再現性が高く認められた。この水素化法を用いることにより、環境試料中、生体組織中および食物中の錫の高感度分析が可能となるものと考えられた。
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