岡山県の東南部を調査対象地域とした。この地域では耐火煉瓦製造労働者にじん肺の多発が報告され、近年では肺癌の多発も報告されていた。研究デザインはpopulation-basedの症例対照研究で、1地域の1986年から1993年の間に40歳以上で死亡した全男性症例を分析対象として、粉じん曝露・じん肺と肺癌の因果関係について検証した。症例は肺癌症例とし、対照群は肝癌・大腸癌と、粉じん曝露との関連が報告されていないその他の癌とした。曝露の指標は、喫煙歴、年齢、粉じん曝露歴、じん肺所見、肺癌のリスクファクターとなる職業歴とした。影響の指標はオッズ比とし、交絡要因についてはマンテルヘンツェル法もしくは多変量解析法で調整した。病理所見とシリカ曝露、じん肺の胸部X線写真の所見とシリカ曝露についてもデータを収集しているので、分析の対象として分析を試みた。 性年齢調整オッズ比は、粉じん曝露に関しては、肝癌対照を取ったとき1.59(0.87-3.03)、大腸癌対照を取ったとき1.94(0.94-4.43)、その他の癌を対照としたとき2.13(1.19-3.85)であった。じん肺症に罹患している人の肺癌に関する性年齢調整オッズ比は、粉じん曝露に関しては、肝癌対照を取ったとき2.45(1.22-5.34)、大腸癌対照を取ったとき2.94(1.30-8.90)、その他の癌を対照としたとき2.69(1.43-5.37)であった。肺癌の組織型は、日本一般人口の肺癌の組織型と比較すると小細胞癌がやや多かったが、その他の特徴はなかった。胸部X線上のじん肺所見との比較では、大陰影がないじん肺患者にも肺癌の多発が認められた。 これらの知見は、シリカ曝露を人体における肺癌の発癌物質に分類したIARCの決定を支持するもである。今後は、食道癌・胃癌・肝癌・造血器系癌など、肺癌以外でシリカ曝露との関係が報告さている癌についての調査と検証が必要となるであろう。
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