研究概要 |
前年度より引き続き,微小透析(microdialysis)法を用いてSe欠乏マウス脳における神経伝達機能を検討した.その結果,12〜14週間のSe欠乏において,線条体のドパミン放出のbasal levelでは変化がなかったが,高カリウムによる脱分極刺激に対する放出亢進では,対照群に比較して反応が有意に促進されることを見いだした.前年度の予備実験ならびに4〜6週の短期欠乏の結果と合わせ,脳内Se濃度の低下に伴うSe依存性のグルタチオンペルオキシダーゼ活性の低下およびこれにともなう酸化ストレスの増大がこのドパミン放出の亢進と関連している可能性が示唆されたので,これをまとめて報告した.これはSe欠乏が脳の神経伝達に変位を起こすことを直接的に示した初めての報告である. 行動変化との対応については,Se充足と欠乏群のオープンフィールド行動について検討した.ドパミン系の薬物については,ドパミン系agonistであるアポモルフィンおよびドパミントランスポーター(放出されたドパミンを神経終末に再取り込みする機能を担うタンパク)の阻害剤であるノミフェンシンを用いた.その結果,欠乏群は対照群と比べ,オープンフィールドにおける活動性が有意に高かった.アポモルフィンに対する反応には,Se充足/欠乏両群の間に差はなかったが,ノミフェンシンに対する反応では欠乏群の方が敏感な傾向があった.後者の差はマイクロダイアリシスで観察されたドパミン放出促進傾向が,ノミフェンシン投与によって顕著に現れたものと考えられ,神経伝達レベルでの違いが行動レベルでも検出されたことになる.今後は,ここで見いだされたドパミン放出反応促進の分子レベルでの機序の解明を試みたい.
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